一人だけ ～あなたさえいれば～

祖母と二人の貧しい暮らしの中、ピョ・インスク（アン・ウンジン）はあかすりの仕事をしながら懸命に生きてきた。そんな彼女に突然見つかった脳腫瘍。余命を告げられた彼女は、祖母に心配をかけないよう旅行に出ると嘘をつきホスピスに入る。自分の辛すぎる人生を呪いながら、ただ時間が過ぎるのを待つだけだと思っていたインスク。そんな彼女が殺人現場で殺し屋のミン・ウチョン（キム・ギョンナム）と衝撃の出会いを果たす―――。インスクとウチョンの不器用で予想できない恋は、二人の冷たい心に温かさを生み、その純粋な愛に涙せずにはいられない。理不尽な人生に振り回されるインスクを、『２人の恋は場合の数』のアン・ウンジンがその卓越した演技で表現し、感情移入してしまう。また、『チェックメイト！～正義の番人～』のキム・ギョンナムが、悲惨な過去を抱え殺し屋として生きるウチョンの、感情が乏しい様子を見事に演じ、インスクと出会い無表情から柔らかな表情に変化していく様は、見ている者の心を温めていく。

ピョ・インスク（アン・ウンジン）、ソン・ミド（パク・スヨン）、カン・セヨン（カン・イェウォン）は、余命少ない自分たちで悪人を“一人”道連れにすることを決める。運命共同体となった彼女たちが紡ぐ絆も本作の見どころ。辛いことばかりで笑った写真がないインスク、インフルエンサーだけど孤独を抱えるミド、義母と夫への悩みがある主婦のセヨン。それぞれ違う痛みを抱え、残り少ない命という共通点を持った彼女たちは“一人”から“三人”になる。一緒にご飯を食べて、話して、誰かが困っていたら手を差し伸べる、そんな当たり前なことさえ、されなかった、してこなかった彼女たちが、死を前にして手に入れる普通の友情。それが、貴重なものなのだとこのドラマは気づかせてくれる。パク・スヨン扮するミドの、自己中心的だが純粋で健気な姿は最高にキュートで目が離せず、カン・イェウォン扮するセヨンの残していく家族への複雑な思いも共感必至だ。

演出を『恋のゴールドメダル～僕が恋したキム・ボクジュ～』などのオ・ヒョンジョン監督が務めており、様々な愛や、友情、そして、ホスピスの中で命に向き合う人間の姿を、美しく印象的に描いている。その煌めくような映像美にも注目して欲しい。また『最高の離婚 ～Sweet Love～』で、感情を繊細に描いた脚本家ムン・ジョンミンが本作の脚本を務め、衝撃的なドラマ展開の中に人間の愛や、激しく静かな感情を絶妙な調和で盛り込み、感情を揺さぶる作品となっている。

あかすりの仕事をしながら、ただ懸命に生きてきたピョ・インスク。だがある日、脳腫瘍が見つかり彼女は余命宣告を受けてしまう。入院したホスピスで主婦のカン・セヨン、インフルエンサーのソン・ミドと同室になったインスクは、彼女たちとある事件を起こす。