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日本映画の祭典 日本アカデミー賞

Matsuoka Yoshifusa
2016.10.25

日本映画製作者連盟(映連)の発表資料[1]によると、2015年だけで1136本もの映画が日本で公開されている。ここまで沢山あると、一体どれを観て良いのか判断がつきにくい。そんな時は何か判断基準(指標)をつけると選びやすい。もし邦画が好みの方がいらっしゃれば、是非日本アカデミー賞受賞作品に注目して欲しい。

歴代最優秀作品賞

日本アカデミー賞とは「映画芸術、技術、科学の発展向上のため設立された映画賞」である。米国アカデミー賞と同じく協会に所属する会員の投票によって優秀作品を決定している。受賞式はゴールデンタイムに地上波放送される。TVドラマ等に比べてやや閉鎖的な映画業界にとって、年に一度の華やかな祭典とも言える。

作品賞、監督賞など主要15部門の正賞が存在するが、今回は優秀作品賞の中でも最も優れた作品に贈られる「最優秀作品賞」に焦点を当てて紹介したい。

全部に触れたいところではあるが、膨大な文字数を要してしまうため数作品に絞ってご紹介させて頂きたい。

歴代受賞作は下記の通り。[2]

日本映画史に名を残す人情ドラマの大傑作

幸福の黄色いハンカチ

第1回 1997年『幸福の黄色いハンカチ』

刑務所帰りの男(高倉健)と偶然知り合った若い男女(武田鉄也、桃井かおり)と共に、妻のもと北海道夕張へと向かう姿を描くロードムービー。『男はつらいよ』シリーズの山田洋次が監督と脚本を担当している。

また東映の任侠映画に数多く出演していた高倉健がイメージを、大きく変えた作品でもある。東映時代は冷静沈着で無口な渡世人といった硬派な役が多かった。本作も硬派といえば硬派なのだが、同時に適度な人間くささを人物設定に加えている。

網走刑務所からの出所直後のラーメン屋のシーンはいい例だ。久しぶりのラーメンと瓶ビールを注文した主人公は、何十万円とする高級料理というわけでもないのに、とても美味しそうな顔でそれらを胃に流し込む。一見すると格好悪いシーンだが、人間として非常に正直であり、”俳優高倉健”への親近感が一気に湧く瞬間である。他にも武田鉄也演じる若者を叱る際にダジャレを使うなど、意外性のある魅力も満載。

長年愛され続ける不朽の名作で、夕張にある「幸福の黄色いハンカチ 想い出広場」には毎年数多くのファンが訪れている。


現実にもありそうな家族の物語

息子

第15回 1991年『息子』

岩手と東京、田舎と都会で展開する家族の物語。父親の老後の面倒をいかがしたものか、など現実味あるお家問題を扱っている。長男(田中隆三)には気を遣って何も言わないが、次男(永瀬正敏)には、叱咤激励を繰り返す父親(三國連太郎)など鋭い人間観察も盛り込まれている。題材だけ聞くと重々しい内容に思えるかもしれないが、流石は山田洋次監督なので安心して観られる。

『男はつらいよ』に象徴される得意の人情味溢れる演出が存分に発揮され、哀愁漂う感動ドラマとして昇華されている。

老いた父親が東京に住む息子夫婦の家庭で居心地を悪くする様子など、田舎を捨てて都会へ出てきた方にはグサリと刺さる描写も多い。田中邦衛、いかりや長介など味のある配役も顔を揃え、90年代のホームドラマを代表するいぶし銀な作品である。


大人も子どもも惹きつける宮崎駿監督作

もののけ姫

第21回 1997年『もののけ姫』

スタジオ・ジブリ制作の宮崎駿監督作。興行収入193億円という爆発的ヒットを飛ばしているが『千と千尋の神隠し』同様に奇妙な作品である。可愛らしいキャラクターが出てくるわけでもなく、寧ろニュルニュルとした物体が主人公たちを襲う気味の悪いビジュアルが先行する内容だ。子どもだとトラウマが残ってしまいそうなものだが、怖いモノ観たさといったもので何故か子どもの方が、好奇心をむき出しに夢中で観てしまう。

また作品の舞台である森林地は、鹿児島県の屋久島がモデルと言われている。屋久島は世界遺産にも登録されており、最近は日本最大のパワースポットとしても有名だ。映画と同じく神秘的な雰囲気を醸しだしている。

そして山犬に育てられた娘サンと、主人公アシタカのラブロマンスも素晴らしい。生き様、環境、価値観、あらゆる障壁を乗り越える愛の美しさも本作の魅力だ。歳を重ねるほど理解できる深みもあるため、幼少期に嗜んだ方はこの機会に再見してみてはいかがだろうか。


若い観客の心を掴んだ恐怖体験サスペンス

告白

第34回 2010年『告白』

湊かなえの名前を一躍有名にしたサスペンス映画。娘を殺された中学教師(松たか子)が生徒を相手に復讐を遂行する過激な内容が、高校生など若い観客の心をガッチリと掴み、興行収入38億円という大ヒットを記録している。松たか子の長台詞は、ホラー映画なみの恐怖を誘う衝撃的なシーンで見逃せない。

イジメや少年犯罪を描いているが、普段大人が過剰に反応するこれら社会問題に対して、若い観客は娯楽として(あるいは社会風刺として)楽しむユーモアを持っているように思える。2000年に問題視された『バトルロワイアル』も然り、教育に悪影響だと糾弾される映画製作者たちの憤りや反発心を感じさせる力強い作品である。

手掛けたのは『パコと魔法の絵本』の中島哲也監督。シリアスなトーンの中、唐突にポップなキャラクターを登場させるなど遊び心を利かせた演出を行っている。ブレイク前の橋本愛や能年玲奈の出演にも要注目。


丁寧で几帳面。勤勉で誠実。美しき日本人を描く

舟を編む

第37回 2013年『舟を編む』

女性ファッション誌に連載された三浦しをんの同名小説を松田龍平主演で映画化。1983年生まれとまだ若い石井裕也監督は、インターネットが一般化した現代とは真逆をゆく、紙媒体である辞書と日本語に深い愛情を注いでいる。

主人公たちは厖大な数のジグソウパズルを組み立てるかの如く、一個一個入念に辞書を編集していく。映画のトーンに大きな抑揚は無く、全篇落ち着いた作風だ。地味といってしまえばそれまでだが、勤勉さを持ち味とする日本の美徳を体現しているようにも思える。

桜を観て美しく感じるのが情緒ならば、本作にも似た印象を受けるに違いない。あまりに日本的である出来栄えゆえに、学生時代に学んだ国語の授業風景でさえ、記憶に蘇える方もいらっしゃるかもしれない。観て楽しい、感じて楽しい風情のある日本映画である。


日本映画を楽しむ。

洋画は字幕や吹替えが中心だが、いかに翻訳が高精度であっても100%ニュアンス(製作国の価値観等含む)で日本人に伝達するのは難しい。
一方、日本映画には言語や文化による障壁が少ないので、理解も共感もしやすい。ハリウッド映画に比べると、爆破や空撮等予算のかかる描写は少ない日本映画だが、作品そのものの良さは無限大だ。洋画派の人にも是非日本映画を楽しんで頂きたい。